
岡内伸二 「『うちの子は働けますか?』企業の立場からお答えします(後編)」コラム –
知的障がいのある方は「支援される側」と考えられがちですが、実際には職場をより良くする力を持っています。今回は、私が資生堂の特例子会社で実際に経験した、知的障がいのある社員による業務改善の事例をご紹介します。
現場から生まれた改善提案
中には、障がいのある社員が自分の得意分野を生かして、部署全体の生産性向上につなげたり、表彰を受けるほどの成果を上げている事例も出てきています。
私が以前勤めていた資生堂の特例子会社「花椿ファクトリー」は、知的障がいのある社員が中心の会社でした。
この会社では、機密情報書類の回収とシュレッダー業務を主要業務の一つとしていました。
資生堂のオフィスは地下2階から22階まであり、部署によって機密書類の量はさまざまでした。
当初は、決まった時間に全てのフロアを回り、機密書類BOXを開けて書類袋を回収していましたが、中には数枚しか入っていないこともありました。
ある時、メンバーから
「少ししか入っていない機密書類袋を毎回回収するのは無駄ではないか」
という意見が出ました。
さらに、
「書類を入れる隙間から棒を差し込み、その棒にラインを引いて、ラインまでたまっていた時だけ回収すればいいのではないか」
という提案がありました。
実際に取り入れてみると、回収時間は約3分の2に短縮されました。
ちょうどその頃、全社で業務改善事例を募集していたため応募したところ、この取り組みは見事入賞し、全社表彰を受けることになりました。
私は、「知的障がいのある社員が、自分で考え、改善を提案し、会社に貢献する」という姿を目の当たりにし、大変うれしく思いました。
就職はゴールではなく、成長の通過点
就職という言葉を聞くと、「フルタイムでバリバリ働く姿」を想像しがちですが、実際にはさまざまな段階があります。
・福祉サービスや実習などで、「通う」「人と関わる」経験を重ねる
・合う仕事の種類や、無理のない勤務時間を一緒に探していく
・今できることから始めて、少しずつ役割の幅を広げていく
この流れの中で、「働く練習の場」と「企業での仕事」を橋渡しする支援事業所や会社も増えており、一人ひとりのペースに合わせたステップが用意されてきています。
お子さんのペースを信じてあげてください
親御さんにとって大切なのは、
「この子なりのペースで、成長を一緒に見守っていこう」
というスタンスを持ち続けることです。
働くことは、ゴールではなく、成長の途中にあるひとつの通過点です。
お子さんには、
「すぐに結果を出さなくていいよ。」
「あなたには、あなたのペースがあるよ。」
と何度でも伝えてあげてください。
社会も企業も、少しずつですが、そのペースに合わせようと変わり始めています。

就労移行支援事業所HOPE神田では、知的障がい・発達障がいのある方が、生活リズム、作業習慣、報告・相談、職場でのルール理解などを身につけながら一般就労を目指せるよう支援しています。ご本人だけでなく、ご家族のみの相談も承っています。
参考リンク:ご家族向け就労相談室(就労移行支援事業所HOPE神田)
岡内 伸二(おかうち しんじ)
三菱地所ホテルズ&リゾーツ株式会社 丸ノ内ホテル
管理兼人事部人権・ダイバーシティ推進室 専任マネージャー
大学卒業後、資生堂に入社。広島・東京の販売部門でキャリアを積み、新規事業部や秘書室を経て人事部で人権啓発を担当。資生堂時代から障がい者支援や人権啓発に取り組み、特例子会社「花椿ファクトリー」の設立に携わり、初代社長を務める。その後、丸ノ内ホテルにて人権啓発担当として活動を継続。東京都人権啓発センターの講師や東京人権啓発企業連絡会の啓発委員としても活動し、50回以上の講演実績を持つ。2025年4月より就労移行支援・就労定着支援事業所HOPE神田 企業支援アドバイザーを務める。
