
岡内伸二 「『うちの子は働けますか?』企業の立場からお答えします(前編)」コラム –
知的障がいや発達障がいのある方のご家族から、このようなご相談をいただくことがあります。今回は、企業で長年障がい者雇用に携わってきた経験から、企業はどのような視点で採用や育成を考えているのかについて、お話ししたいと思います。
「働けるかな」という不安は、とても自然なこと
「うちの子は働けるのかな。」
「能力が高くないと就職は難しいのかな。」
障がいのあるお子さんを持つ親御さんであれば、一度はそんな不安を感じたことがあるのではないでしょうか。
今の社会では、障がいのある方が「自分のペースで」「得意な力を生かして」働ける場が、少しずつですが確実に増えています。完璧である必要はありませんし、スタートラインも人それぞれで大丈夫です。
今では、多くの企業や支援機関が、障がいのある方に安心して働いてもらうための制度やサポートを整えています。
それは、障がい者雇用を法定雇用率に縛られた「義務だから」ではなく(もちろんそのように考えている会社もありますが)、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)の考え方のもと、「一緒に成長する仲間づくり」と考える企業が増えているからです。
※ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)
多様な人が働く組織の中で、一人ひとりに合った配慮を行い、それぞれが力を発揮できる職場づくりの考え方です。
企業が大切にしていること
例えば、障がいのある社員のために、次のような環境づくりを進めている会社もあります。
・静かなスペースやサテライトオフィスを用意し、安心して集中できる環境を整える
・必要に応じてジョブコーチや相談員が入り、仕事や人間関係の悩みを一緒に整理する
・本人の特性に合わせて仕事の内容や量を調整する
こうした工夫を通して、「すぐに戦力になること」よりも、「安心して通い続けられること」「少しずつできることが増えること」を大切にする企業が増えています。
親御さんからは「高い能力がないと続けられないのでは」と心配の声を聞くことがありますが、多くの企業が求めているのは「特別な才能」ではありません。
企業側が最低限大切にしているのは、次のようなことです。
・約束した時間に、できる範囲で通おうとする姿勢
・分からないことを少しずつ「分からない」と伝えられる力
・周りの人と助け合いながら仕事を続けていく気持ち
また企業側は、「最初から完璧」を期待しているわけではなく、「時間をかけて、その人なりの成長が見られること」を大切にしています。
次回は、知的障がいのある社員が会社を変えた実例をご紹介します
私が以前勤めていた資生堂の特例子会社「花椿ファクトリー」では、知的障がいのある社員が自ら仕事の改善を提案し、その取り組みが全社表彰につながった出来事がありました。
「支援される側」ではなく、「会社をより良くする存在」として活躍した実際のエピソードです。
次回は、その具体的なお話をご紹介したいと思います。

就労移行支援事業所HOPE神田では、知的障がい・発達障がいのある方が、生活リズム、作業習慣、報告・相談、職場でのルール理解などを身につけながら一般就労を目指せるよう支援しています。ご本人だけでなく、ご家族のみの相談も承っています。
参考リンク:ご家族向け就労相談室(就労移行支援事業所HOPE神田)
岡内 伸二(おかうち しんじ)
三菱地所ホテルズ&リゾーツ株式会社 丸ノ内ホテル
管理兼人事部人権・ダイバーシティ推進室 専任マネージャー
大学卒業後、資生堂に入社。広島・東京の販売部門でキャリアを積み、新規事業部や秘書室を経て人事部で人権啓発を担当。資生堂時代から障がい者支援や人権啓発に取り組み、特例子会社「花椿ファクトリー」の設立に携わり、初代社長を務める。その後、丸ノ内ホテルにて人権啓発担当として活動を継続。東京都人権啓発センターの講師や東京人権啓発企業連絡会の啓発委員としても活動し、50回以上の講演実績を持つ。2025年4月より就労移行支援・就労定着支援事業所HOPE神田 企業支援アドバイザーを務める。
